近年、「レア」「希少」「限定」といった言葉で販売されるモンステラが急増しています。組織培養(TC株・メリクロン株)の普及により、かつては入手困難だった斑入りモンステラだけでなく、シエラナやコンパクタ、バールマルクスフレームなどの緑一色の株までもが“TC株”として市場に並ぶようになりました。しかし、こうして誰でも手に入るようになった今こそ、「本当に珍しいモンステラとは何か?」という疑問が浮かび上がります。見た目の派手さや販売価格の高さで“希少”を演出するものもあれば、流通量が少なくとも学術的・遺伝的な価値を持つ原種系統も存在します。
つまり、“レア”という言葉の裏には、商業的レア(売り手側の都合)と、生物的レア(植物そのものの希少性)の2つの意味が潜んでいるのです。このページでは、購入者目線でその違いを整理し、TC株時代における本当に珍しいモンステラの種類と見極め方を詳しく解説していきます。
目次
レアって何?モンステラ市場で使われる“希少”という言葉の正体
近年、モンステラ市場では「レア」「希少」「限定」といった言葉が当たり前のように使われています。SNSや販売サイトでも“レア株”の表現を見ない日はなく、初心者ほど「高価=希少」と誤解しがちです。しかし本来、レア(rare)という言葉は「珍しい」という意味を持ちながらも、その背景には流通量・遺伝的個体差・栽培の再現性といった複数の要素が絡み合っています。
つまり、モンステラにおける「希少性」とは単なる人気や価格ではなく、“なぜ手に入らないのか”という理由の深さにこそ本質があるのです。ここでは、現在のモンステラ市場で乱用される“レア”という言葉の本当の意味を、販売側と購入側の視点から整理していきます。
『レア=高価』ではない?モンステラ販売で誤用されがちなレアの意味
モンステラ販売の世界では、「高価=レア」と見なされる傾向が強くあります。しかし実際には、価格が高いことと、植物として希少であることは必ずしも一致しません。たとえば、一時的にSNSで話題になった株や、有名インフルエンサーが紹介した株は、需要が急増することで市場価格が跳ね上がります。ところがそれらの多くは、生産体制が整えば短期間で再流通する“話題型レア”にすぎません。本来の「希少」とは、数が少ないことだけでなく、再現・増殖が難しい個体や、遺伝的に唯一性を持つ株を指します。つまり、レアの本質は“値段の高さ”ではなく、“再現できない理由の深さ”にあります。
商業的レアと生物的レア──2つの“レア”を見分ける視点
モンステラの「レア」には、実は2つの異なる意味が存在します。ひとつは、販売側の都合によって作られる商業的レア。もうひとつは、自然や遺伝的な背景に由来する生物的レアです。前者の商業的レアとは、販売数量を限定したり、新しい名称やタグを付けることで“特別感”を演出した株のこと。一方、生物的レアとは、自然環境下で発見例が少ない原種系統や、突然変異によってしか生まれない固有形質を持つ株を指します。
たとえば「タイコンステレーション」はTC株の普及により広く流通していますが、私が実際に育てているMonstera deliciosa 'Lace Prismatic Morph'(モンステラ・デリシオーサ・レース・プリズマティック・モーフ)のように、再現が極めて難しく、遺伝的変異の由来が明確でない株は、依然として“真のレア”と呼ぶにふさわしい存在です。
SNSや販売サイトで“レア”が氾濫する理由
SNS、Youtube、販売サイトで「レア」「希少」「限定」という言葉を目にしない日はありません。モンステラの投稿においても、写真映えする斑入り株や名前の珍しい株ほど注目を集めやすく、その“いいね”や“リツイート”の数が、そのまま市場価値を左右する時代になっています。
販売者は注目を得るために“レア”を強調し、購入者も「レア」という言葉に安心感や特別感を求める。この構図が繰り返されるうちに、レアという言葉が本来の意味を失い、単なる販売促進ワード化してしまいました。つまり、現代のモンステラ市場における“レア”とは、植物学的希少性よりも、ネット上での話題性と拡散性によって作られているのです。
“レア”情報に惑わされないための3つの視点
“レア”という言葉が氾濫する今、購入者が冷静に見極めるためには、次の3つの視点を持つことが大切です。
“今しか買えない”に流されない
SNSやフリマアプリでは、一時的な話題性によって価格が急騰することがあります。希少性は“時間”によって変化するため、焦って購入するよりも、数か月後の市場動向を観察してから判断する方が賢明です。
誰が「レア」と言っているのかを確認する
販売者なのか、育成者なのか、第三者の評価なのか。立場によって“レア”の意味はまったく異なります。実際のところ、多くの発信は販売者、販売者になりすました育成者、そして販売者を支援する仲間たちによるものです。特に販売者は「売上を立てたい」という意識が先行しやすく、結果として“レア”という言葉を過剰に発信する傾向があります。
どうして“レア”なのかの根拠を見る
生産数の少なさだけでなく、「再現が難しい形質」「突然変異株」「原種系統」など、なぜ“レア”とされているのか理由が明示されているかを確認します。根拠のない「限定」「一点もの」といった表現は、販売上の演出である可能性もあります。
TC株時代に変わる“レア”の基準:量産できる希少性の限界
ここ数年で「TC株(組織培養株)」という言葉を目にする機会が急激に増えました。かつては一部のナーセリーや育成者のみが扱っていた技術が普及し、今では一般市場でもTC株由来のモンステラを簡単に購入できるようになっています。この変化により、“レア”と呼ばれるモンステラの価値基準が大きく揺らぎました。
なぜなら、TC株は人工的に同じ遺伝情報を持つ個体を大量生産できるため、本来「数が少ないからこそ希少」とされた概念が崩れてしまったからです。かつて“幻の一株”とされたモンステラが、今では同一形質で数百株単位に増やされる。それがTC株時代の現実です。
この章では、TC株がもたらした「量産できる希少性」という矛盾と、それでもなお“本当にレア”と呼べる株に共通する基準について考えていきます。
TC株(組織培養株)とは何か?|大量増殖がもたらした市場変化
TC株とは「Tissue Culture(ティッシュカルチャー=組織培養)」の略で、植物の一部組織を無菌環境で培養し、同じ遺伝情報を持つクローン個体を短期間で大量に増やす技術のことです。元となる親株(マザー株)を一度確立すれば、理論上は無限に同じ性質の株を再生産できます。
この技術は本来、絶滅危惧種の保全や新品種の安定供給を目的に発展しましたが、近年は観葉植物やレアプランツ市場に応用され、「短期間で増やせる=売れる」という商業的側面が強まっています。
かつて「希少」だったモンステラ・タイコンステレーションなども、今ではTC株によって世界中で流通する一般的な品種となりました。つまりTC技術は、モンステラの希少価値を押し下げると同時に、“誰でも手に入る時代”を作り出した最大の要因でもあるのです。
「TC株レア」はなぜ違和感を覚えるのか|人工増殖と自然発生の違い
TC株は、遺伝情報をコピーして人工的に増やす技術です。同じ形質を持つ個体をいくらでも再生産できるため、外見上は希少で美しいモンステラが、短期間で世界中に広がるようになりました。しかし、その「増やせる希少性」にこそ、多くの愛好家が感じる違和感の理由があります。
本来、“レア”と呼ばれる植物は、自然界の偶然の変異や、長い時間を経て形成された個体差の中から生まれるものです。つまり、再現できない一回性の美しさこそが希少性の本質です。対して、TC株は同一の遺伝情報を持つクローンであるため、いかに見た目が珍しくとも、「唯一性」という価値は薄れてしまいます。レアとは本来、「数の少なさ」よりも「再現不可能性」に宿る。この点を理解すると、“TC株レア”という言葉の矛盾が見えてきます。
TC株・OC株・実生株の違いを整理する
「レア」と呼ばれるモンステラの多くは、実は増殖方法によって希少性がまったく異なります。特にTC株(組織培養株)、OC株(オリジナルカット株)、実生株(種から育った株)の違いを理解すると、“レア”という言葉の意味がより立体的に見えてきます。
どの株にもメリットとリスクがあり、一概に優劣をつけることはできません。しかし、再現性が高い株なのか、自然由来の偶然性を持つ株なのかを知ることで、「本当に珍しい一株」がどこにあるのかが明確になります。
TC株・OC株・実生株の比較表
項目 | TC株(組織培養株) | OC株(オリジナルカット株) | 実生株(種子から育成) |
---|---|---|---|
増殖方法 | 組織培養(ラボで遺伝情報を複製) | 親株の茎や節をカットして増殖 | 種をまき、発芽から育成 |
遺伝的特徴 | 親株と完全に同一(クローン) | 親株とほぼ同一(環境により微差) | 遺伝的に多様(個体差あり) |
希少性の性質 | 数を増やせるため希少性は低下しやすい | 親株が限定されるためやや高め | 一点ものの特徴を持ち、再現困難 |
市場流通量 | 非常に多い(量産可能) | 限定的(栽培者依存) | ごく少ない(生産効率が低い) |
外見の安定性 | 非常に安定(形質が揃う) | 比較的安定 | 変異や個性が出やすい |
魅力のポイント | 均一で美しい見た目、入手しやすい | 親株の来歴が明確で信頼性が高い | 世界に一つの姿になる可能性 |
注意点 | 同質化が進み「個性」が薄れがち | 親株の状態次第で品質差あり | 成長に時間がかかり管理が難しい |
補足コメント
- TC株は「再現性のレア」、実生株は「偶然のレア」、OC株はその中間と考えると分かりやすいです。
- “本当にレア”を求める場合、遺伝的に唯一性を持つ実生株や、親株の履歴が確かなOC株が高く評価されます。
- ただし、TC株にも「安定供給」「価格が下がる」というメリットがあり、入門者にとっては最も扱いやすい選択肢です。
こうしてTC株・OC株・実生株を比べてみると、「どのように増やされたか」が、その株の希少性の感じ方や価値の見え方を大きく左右することが分かります。つまり、レアとは単に“手に入りにくい”というだけでなく、再現性の高さか、偶然性の深さか――どちらを重視するかによって評価が変わる概念です。
次の章では、これらの増殖背景を踏まえながら、TC株時代においても“本当に珍しい”と呼べるモンステラの条件を、3つの明確な希少性の基準として整理していきます。
本当に珍しいモンステラとは?希少性の3つの基準
TC株によって多くのモンステラが手軽に入手できるようになった今、「希少」「レア」という言葉の本当の意味が、これまで以上に問われる時代になりました。“数が少ないから珍しい”という単純な構図では、もはや“本当のレア”を説明しきれません。
モンステラの希少性を見極めるためには、栽培数や価格だけでなく、その背景にある遺伝的・生態的・文化的要素を総合的に理解する必要があります。同じ「珍しい」という言葉でも、“作れるレア”と“生まれるレア”では価値の意味がまったく異なるのです。
モンステラは花が咲く直前の成熟期のピークに、鮮やかな斑入りの葉を広げ、複雑な形状の葉を展開します。若い株では見られないこの表現は、長い時間をかけて育てた株にしか現れない“真の姿”です。つまり、モンステラの希少性とは単に数の問題ではなく、“成熟を経て初めて出会える表現”を含めて捉える必要があります。


ここでは、モンステラを成熟させ、花を咲かせ交配させるまで育ててきた経験から導いた、本当に珍しいモンステラを判断するための3つの基準──「生物的希少性」「栽培難易度」「市場流通量」──を順に解説していきます。
① 生物的希少性:野生分布や遺伝的多様性によるレア
モンステラの世界で最も本質的な“レア”とは、自然界における分布の狭さや、遺伝的な特異性に由来する希少性です。これは人の手で作り出せるものではなく、進化の過程や環境条件によって偶然に生まれた唯一無二の個体を指します。
たとえば、熱帯雨林のごく限られた地域にしか自生しない原種モンステラや、標高・湿度など特定の環境下でしか生きられない系統は、その存在自体が“生物的レア”です。これらの株は見た目の派手さこそ少ないかもしれませんが、遺伝的な純度と自然淘汰をくぐり抜けた強さという、人工的な株にはない価値を持っています。
つまり、最も本質的なレアとは、人が再現できない自然の設計図そのもの。成熟しても変わらぬ遺伝的特異性を持つこの「生物的希少性」を理解することが、“見た目の珍しさ”に惑わされない第一歩になります。
② 栽培難易度によるレア:維持が難しく再現しにくい個体
レアと呼ばれるモンステラの中には、育てること自体が難しい株が少なくありません。同じ種類でも、栽培環境や管理方法によって株の状態が大きく変わり、“本当に希少”と感じる株ほど、長期間にわたって美しい姿を維持するのが難しいという特徴を持っています。
たとえば、斑入り株のように光合成効率が低い株や、葉が薄く水分ストレスに弱い系統は、条件を少し誤るだけで斑が消えたり株が弱ったりします。また、肥料や湿度の管理を一歩間違えるだけで、葉の模様や発色が変化してしまうこともあります。
このように、「再現が難しい株」=「維持に技術を要する株」とも言えます。単に珍しいだけでなく、時間・観察・経験によって価値が磨かれる株こそ、栽培難易度に裏打ちされた真のレアと言えるのです。そして、成熟まで株を維持し、そのピークの表現を引き出せるかどうかこそ、栽培者の力量が問われる部分でもあります。
③ 市場流通量によるレア:限られたコレクター株・現地株
モンステラの世界では、「市場にほとんど出回らない」という理由だけで“レア”と呼ばれる株も存在します。それが、流通経路や生産者の規模によって供給量が限られたコレクター株や現地採取株(ワイルド株)です。
たとえば、特定のナーセリーが独自に保持している選抜株や、原産地で採取された“現地フォーム”は、一般市場にはほとんど流れません。これらは栽培技術や知識だけでなく、入手ルートそのものが限定されている点で希少性を持ちます。
ただし、注意すべきは「流通が少ない=本質的に希少」とは限らないこと。中には、単に販路が狭いだけで大量増殖可能な株もあります。重要なのは、“なぜ少ないのか”という背景を理解し、供給構造の裏にある希少性の理由を見極めることです。一方で、たとえ流通が限られていても、成熟した株で見せる表現が乏しければ、真のレアとは言い難いことも忘れてはなりません。
“価格=レア”ではない:購入者が誤解しやすい3つのポイント
モンステラ市場を見ていると、「高い株ほどレア」だと思い込んでしまうケースが少なくありません。SNS、Youtube、販売サイトでは「限定」「一点もの」「希少」などの言葉が並び、価格が高いほど価値があるように見えます。しかし実際のところ、その多くは一時的な話題性や販売戦略によって作られた“価格上のレア”に過ぎません。
本当に珍しいモンステラは、値札の数字では判断できません。流通量の少なさや遺伝的な特異性、あるいは長年の育成過程で得られる個体差など、価格以外の背景にこそ本当の希少性が隠れています。
この章では、購入者が陥りやすい3つの誤解、「価格と希少性の混同」「人気と価値の錯覚」「再現性の見落とし」を例とともに整理し、“レア”を数字ではなく本質で見抜くための考え方を解説していきます。
市場価格は希少性より“需要と話題性”で変動する
モンステラの価格は、必ずしも希少性だけで決まるわけではありません。多くの場合、一時的な人気や話題性、そして需要と供給のバランスによって上下します。SNSで注目された株や、インフルエンサーが紹介した株は、流通量が変わらなくても価格だけが一気に高騰することがあります。特に私自身がSNSやサイト上で継続的に発信してきた「モンステラ・スケルトン」もその好例で、話題性の高まりとともに価格が大きく変動した実例の一つです。
つまり、「高い=珍しい」ではなく、「注目されている=高い」が現代の市場構造です。そして話題が落ち着くと、価格も急速に下がる。いわゆる“レア価格”とは、希少性よりも一時的な人気の熱量によって形成されることが多いのです。
価格はあくまで市場の一断面。本当に価値あるモンステラを見極めるには、数字よりも、その株が持つ背景・履歴・系統を見る目が欠かせません。
“レア”表記の販売株の中に潜む模倣・偽称のリスク
“レア”という言葉が一般化するにつれ、本来とは異なる表記や誤解を招く販売表示も増えています。モンステラ市場では、人気種に似た形質を持つ株を“〇〇タイプ”“cf.(比較)”“aff.(近似)”などと曖昧に表現し、あたかも希少な正式品種であるかのように見せるケースも少なくありません。
また、SNSやフリマアプリやオークションアプリでは、実際にはTC株やNoID株(識別不明株)であるにもかかわらず、“レア”や“オリジナル”と称して販売される事例も見受けられます。こうした曖昧な表記や誤称は、栽培者や購入者の混乱を招くだけでなく、本来の品種や育種家への信頼を損なう要因にもなります。モンステラのNoID株については、以下のページでまとめています。
“レア”の名のもとに発生する模倣や偽称の多くは、販売者側の知識不足または意図的な演出から生まれるものです。だからこそ、購入者自身が“表記の真意”を読み取る目を持つことが欠かせません。
本当に価値ある株を選ぶための判断基準とは
モンステラを選ぶとき、最も大切なのは「人がどう言っているか」ではなく、自分が何を求めているのかを明確にすることです。“レア”や“希少”という言葉はあくまで販売上のラベルにすぎず、その株がどんな環境で、どんな経緯を経て育ってきたのかにこそ本当の価値があります。
本当に価値あるモンステラとは、見た目の派手さや価格ではなく、時間をかけて健やかに成長し、栽培者との関係性が積み重ねられた株です。それはつまり、「再現できない物語」を持つ植物とも言えます。
購入時には、ラベルや名前よりも、
- 育成者の記録や背景
- 株の状態や根の強さ
- 将来の成長ポテンシャル
といった実態に根ざした情報を重視すること。そうすることで、“本当にレア”な一株が自然と見えてきます。
まとめ:TC株時代の“本物のレア”とは、再現できない個性と背景にある物語
TC株の普及によって、モンステラはかつてないほど身近な植物になりました。誰でも手に入り、誰でも増やせる時代。けれども、その“便利さ”の裏で、「本当に珍しいとは何か」という問いが改めて浮かび上がっています。
本物のレアとは、単に流通が少ない株や高価な株ではありません。同じ形をしていても、育てた環境・時間・人との関係によって異なる姿を見せる―その再現できない個性こそが、希少性の本質です。たとえTC株であっても、長年大切に育て上げた株には、その株だけの“物語”が宿ります。
つまり、TC株時代における“本物のレア”とは、人工的に作られる希少性ではなく、育てる中で生まれる唯一性のこと。その株を通じて積み重ねた時間と経験が、何よりも価値ある「希少性」なのです。
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流行ではなく“系統と履歴”でレアを判断する時代へ
SNSや販売サイトの情報が氾濫する今、“レア”という言葉は流行や一時的な人気によって左右されがちです。しかし、本当に価値あるモンステラとは、いつ話題になったかではなく、どのような系統から生まれ、どのように受け継がれてきたかで判断すべき時代に入りつつあります。
親株の出所や遺伝的背景、育成環境、カットや分譲の履歴。それらの情報を丁寧にたどることこそが、“系統と履歴”でレアを見極める第一歩です。見た目や価格よりも、その株が持つ来歴や記録に目を向けることで、希少性は「流行語」ではなく、「物語」として息づき始めます。
モンステラを選ぶ基準が、流行ではなく系統や履歴へとシフトしていくこと。それは、栽培者自身が“希少性の定義者”になる時代の到来を意味しています。
“レア”を定義できるのは、販売者ではなく育てる人自身である
“レア”という言葉は、本来、販売者がつけるラベルではなく、育てる人が時間の中で見出す価値です。同じ株でも、誰がどんな環境で、どれだけ手をかけて育てたかによって姿も意味も変わります。
つまり、「レア」とは他人が決める評価ではなく、自身が育てた時間の証。流行が過ぎても、SNSの注目が去っても、手元の株に物語が宿り続けるなら、それは間違いなく“本物のレア”です。
販売の言葉に惑わされず、自らの経験と観察を通して、“レア”という価値を定義できる栽培者でありたいものです。“レア”という言葉の意味は、時間とともに変化していきます。そして、その変化を最も深く感じ取れるのは、実際にモンステラを育てている人だけです。
私自身、毎日の観察と記録を通して、「同じ株でも日々違う表情を見せる」という事実に驚かされ続けています。そうしたリアルな変化の記録は、こちらのページで公開しています。
・モンステラ栽培記録・観察ログ一覧
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植物を“投資”ではなく“時間と共に育む喜び”で見る視点
希少植物の人気が高まるなか、モンステラも“投資対象”のように語られることが増えています。購入直後の価格や希少性に注目が集まり、「どれだけ高く売れるか」「どれだけ珍しいか」が価値基準になりがちな時代。
けれども、植物は本来、時間と共に変化し、育てる人との関係性の中で価値を深めていく存在です。1枚の新芽が出るまでの季節の流れ、根が張るまでの静かな時間、葉を広げる生命のリズム、そのすべてが“喜び”であり、“投資では測れない価値”です。
市場がどう変わっても、植物を時間で育む視点を失わないこと。それこそが、TC株時代においても変わらない、植物栽培の最も豊かな本質だと思います。
どんな高価な株よりも、何年も一緒に過ごしたモンステラのほうが美しい。“レア”とは、育てる時間そのものが作り出す、モンステラを大切に育てる事ができる栽培者の奇跡です。
海外で話題になっているモンステラ販売のクレーム事例
「希少とされたが実際は量産株だった」という典型的な不信。近年、海外では“Rare(レア)”と称して販売されるモンステラに対し、「実際には量産株だった」という購入者からのクレームが増加しています。販売者が「限定株」「希少株」として高額で販売していたものの、後に同じ株が大量に流通し、希少性が失われるケースが後を絶ちません。
こうした背景には、組織培養(TC=Tissue Culture)による大量生産技術の普及があります。本来「希少」とされていた株が、わずか数ヶ月で世界中に流通するようになり、“レア”という言葉自体が信用されなくなっているのが現状です。
以下では、海外コミュニティで実際に話題となった代表的な事例を紹介します。
事例①:TC(組織培養株)を「希少株」として販売
販売初期に「選抜株」「世界に数株のみ」として高値で販売された株が、後にTC技術で容易に増殖されていたことが判明したケースです。特に Monstera Thai Constellation のような品種では、初期ロットでは高値で取引され、半年後には量産株が世界的に流通したことで、コミュニティで「これは本当にレアと言えるのか?」という議論が頻発しました。
“There are really no such thing as rare commercial plants — only an artificial shortage of stock created to drive up price.”
(「商業的な“希少株”なんて存在せず、価格を吊り上げるために人工的に在庫を絞っているだけだ」)
— Reddit / r/RareHouseplants
このように、販売者が人工的に“希少”を演出する手法は、海外では “artificial rarity(人工的な希少性)” として批判されています。
事例②:量産株が複数ショップに同時出現 ― 希少性の神話崩壊
一部の販売者が「この株は特別な変異株です」として高額販売した後、数ヶ月後には同型の株が複数のショップで同時に出回る例も報告されています。コミュニティでは「同じ遺伝系統の株を“レア”と呼んでよいのか?」という議論が生まれ、購入者の中には「最初に買った自分が損をした」と不満を訴えるケースもあります。
“It’s rare because it’s new; stock is still low… now there’re millions of Thai Con because everybody and their neighbors TC Thai Con.”
(「“レア”なのは登場したばかりだからで、在庫が少なかっただけ。今やタイコンは誰でもTCできる」)
— Reddit / r/RareHouseplants
このような事例からも分かる通り、“レア”という言葉の寿命は非常に短く、一時的な希少性が商業的な価値と結びついているに過ぎないことが多いのです。
事例③:宣伝写真と同型の株が次々登場 ― “限定感”の崩壊
SNS上で「世界に一株」「特別な斑入り」と宣伝された個体と酷似した株が、数ヶ月後に他のショップや販売プラットフォームで大量に出品される、というケースもあります。このような状況に対し、海外フォーラムでは“fake exclusivity(偽りの限定感)”という言葉も使われています。
“The plant was being promoted as ‘one of a kind,’ yet dozens of near-identical ones appeared later in multiple listings.”
(「“唯一無二”として宣伝された株と同じようなものが、後にいくつも出てきた」)
この“限定演出”は、短期的には販売促進になりますが、長期的には信頼を損ね、ブランド価値を低下させる原因にもなります。
総括:本当の“レア”とは、維持と再現が難しいこと
海外ではすでに、「本当にレアな植物とは、長期的に安定して維持・再現が難しい株を指すべき」という認識が拡大、定着しつつあります。つまり、“数が少ない”ではなく、“時間をかけても美しく保てる・再現できない”ことこそが、本来の希少性であるという考え方です。
ここで述べる「再現できない」とは、遺伝的にも、環境的にも、時間的にも“同じ姿を二度と作り出せない”という意味です。どれだけ技術が進歩しても、“育てた時間”だけはコピーできません。ここにこそ、モンステラの本当の希少性があります。

Types of Monstera
モンステラの種類
私が現在栽培しているモンステラの種類は、一般的な人気の種類(モンステラデリシオーサ、モンステラボルシギアナ)と、その他の種類(sp. ペルー、アカコヤグエンシス、アクミナータ、アダンソニー(マドカズラ)、エスケレート、オブリクア、サブピンナータ、シルテペカナ、スタンデリアナ、スプルセアナ、ドゥビア、ピナッティパルティタ、レクレリアナ)です。それぞれの詳細については、以下のページでまとめています。