2023年11月15日(過去の栽培記録はこちら)より栽培を開始し、2メートル50センチのマンション天井高まで成長したモンステラ・シエラナを、2025年3月30日(過去の栽培記録はこちら)に剪定・株分けしました。その際のボトムカット苗から、穴がたくさんあいた新しい葉が開いてきました。
X(旧Twitter)でモンステラについて発信していると、
「モンステラの葉に穴があかないのはなぜですか?」
「成熟したモンステラをカットした株は、成熟を引き継ぎますか?カット時に成熟がリセットしませんか?」
といった質問をよくいただきます。
結論から言うと、モンステラの葉に穴があかない主な原因は、“購入した株が未成熟”であるためです。購入時、親株の写真では大きく切れ込みや穴が見られても、実際に届く販売株(トップカット・ミドルカット・ボトムカットいずれも)を育てても穴が開かない場合、育て方の問題ではなく、親写真が偽物である可能性が高いと考えられます。なぜなら、成熟したモンステラから剪定・株分けされた株は、剪定時に成熟がリセットされず、その成株相を引き継ぐからです。つまり、成熟株からのカット苗は早い段階で葉に切れ込みや穴が現れますが、未成熟な株であればあるほど、いつまで経っても葉が単葉のままです。
モンステラの幼若期(未成熟期)の葉は、穴も切れ込みもない滑らかな形、つまり単葉(たんよう)です。一方、成熟期のモンステラは、深い切れ込みや穴が多数入る裂葉(れつよう)・穿孔葉(せんこうよう)を展開します。
本記事では、穴が開きにくいモンステラ・シエラナを実際に栽培し、ボトムカット苗から成熟維持を確認した実例をもとに、その仕組みと見分け方を詳しく解説します。
「モンステラをカットしても成熟を引き継ぐ?|葉の穴を保つ条件と実例
モンステラの「成熟度(成株相=葉に切れ込みや穴が入る傾向)」は、茎の節にある芽(頂芽・脇芽)内部の成長点(メリステム)が保持する“発育段階=相(phase)”の記憶に依存します。この「芽が相を記憶する」仕組みが、カット後の株が成熟状態を維持できるかどうかを決定します。
相(phase)は芽が覚えている
植物は成長の過程で、幼若相(ようじゃくそう)から成株相(せいしゅくそう)へ移行します。この変化は、葉の形やサイズが変わる異葉性(heteroblasty/ヘテロブラスティー)として現れます。モンステラでは、幼若相では穴のない単葉、成株相では深い切れ込みと穿孔(せんこう)が特徴です。
相の状態は成長点(頂芽・脇芽)のメリステムが保持する発育情報によって決まり、いったん成株相へ移行した芽は、成株的な形質を基本的に保持したまま新しい葉を展開します。これは植物発生学でいう栄養成長期の相転換(vegetative phase change)であり、芽の内部状態が葉の形態を規定することが学術的に示されています。
カットしても成熟を保てるかどうかは、「どの芽を残したか」、そして「そもそも成熟した株を育て上げたか」によって決まる
実務的には、頂芽を含むトップカットや、成熟葉を出していた節の脇芽を含むミドルカットでは、その芽が成株相を保持しているため、カット後も成熟形質(葉の切れ込みや穴の入り方)を引き継ぎます。成熟株から株分けした苗で葉が小さくなる場合、これは「若返り」ではなく、環境や根量不足による一時的な縮小(表現型の可塑性)です。
十分な光と支柱(成熟株であれば登り棒やモスポールではなく、竹の棒などで十分)を与え、根が安定すれば再び大きな裂けや穴を持つ葉へ戻ります。
一方で、幼若相の節から株分けした株は、そもそも成株相ではないため、葉の切れ込みが少なく、支柱を立てても穴がなかなか開かないまま成長を続けます。特にモンステラ・シエラナは、数あるモンステラの中でも葉に穴を開けるまで育て上げる難易度が高い種類だと今までの栽培を通じてとても感じます。
実際、Monstera sierrana は M. deliciosa に比べて fenestration(葉の穴開き)の発現閾値が高く、葉が成熟するまでに時間がかかる種類として知られています。この特徴は海外のコミュニティでもたびたび話題になっており、特にアメリカ・台湾・東南アジアの栽培者の間では「one of the hardest Monstera to fenestrate(最も穴が開きにくいモンステラのひとつ)」と評されています。
カット後の苗が“成熟”を引き継いだ実例
実際に私が栽培しているモンステラ・シエラナにおいて、トップカット・ミドルカット・ボトムカットの各カット苗が成株相を維持して“成熟”を引き継いだ事例をご紹介いたします。
トップカット(頂芽つき)
トップカットは、もっとも成株相を維持しやすい方法です。ただし、剪定後の移植ストレスにより最初の1~2枚は小葉化することがよくあります。光・支柱・根張りが整えば、成株的な裂けや穿孔(穴)へ戻りやすくなります。以下は、2025年3月30日に剪定・株分けしたモンステラ・シエラナのトップカット苗です。

以下はカット前の親株の写真です。頂芽を含むため、カット前の親株の状態をそのまま引き継いでいることが写真からもよく確認できます。

ミッドカット(脇芽つき)
ミドルカットでも同じことが言えます。十分に成熟したモンステラであれば、成株相を維持しやすいため、ミドルカット苗でも茎伏せ直後の葉から親株に似た切れ込みが入ることが多く見られます。ただし、根量不足や低光環境では、幼若風の小葉がしばらく続くことがあります。以下は、2025年3月30日に剪定・株分けしたモンステラ・シエラナのミドルカット苗です。茎伏せ直後に展開した葉から、すでに切れ込みの入った葉が複数の株で確認できました。

ボトムカット(株元)
古いボトムカット(株元)でも、健全な脇芽が成株相であれば維持可能です。ただし、土中や遮光環境で形成された休眠芽は、出だしが幼若的に見えることがあります。頂芽寄りに少し長めにボトムカット苗を残すことで、成株相を維持しやすくなります。以下は、2025年3月30日に剪定・株分けしたモンステラ・シエラナのボトムカット苗です。ボトムカット直後の葉からすでに切れ込みが入り、8ヵ月後には多数の穴があいていることが写真から確認できます。

新葉なのでとても小さいのは当たり前ですが、こんなにも小さなモンステラシエラナの葉に穴が複数あいている事が確認できます。

よくある間違い
誤解① 登り棒やモスポールを使えば穴が開くと思っている
「登り棒やモスポールを使えば穴が開く」では無く、正しくは「成熟したモンステラ(成熟に向かって成長済みのモンステラ)に登り棒やモスポールを使うと、葉に切れ込みが入り、穴があきやすくなる」です。一方、未成熟なモンステラに登り棒やモスポールを立てても、いつまでも切れ込みが少なく、穴のない葉を出しながら登っていきます。
成熟したモンステラであれば、コストや手間のかかる登り棒やモスポールを使わなくても、竹の棒を支えにするだけで葉に穴が開きます。以下は、実際に竹の棒を支えにして栽培した、葉に穴をあけるのが難しいとされるモンステラ・シエラナの例です。用土は無機質(赤玉土:鹿沼土:軽石=2:1:1)のみを使用しています。成熟したモンステラを栽培することで、高価な用土も不要であり、設置や延長に手間のかかる登り棒やモスポールも必要ありません。


誤解② 剪定すれば必ず幼若化すると思っている
芽の相は多くの場合維持されます。見かけの幼若化は環境・根量による一時的に縮小しているだけです。
誤解③ 葉に穴が出ない=若返ったと誤解している
光・支持・栄養・根量で大きく変わります。相そのものの後退と表現型の可塑性は区別して考えなくてはなりません。
誤解④:葉に穴が出ない=購入者の栽培スキルが低い・環境が悪いと決めつけている
特にミドルカット苗やボトムカット苗で育てたモンステラの葉に、なかなか穴が開かない場合、それは購入者の栽培スキルが低いからでも、環境が悪いからでもありません。そもそも販売されているモンステラの苗や茎自体が未成熟であることが主な原因です。未成熟株を成熟株と誤認して販売するケースは、市場でも多く見られます。購入時には「葉の大きさ・切れ込み・穴のあき方・節間の太さ・根の状態・開花経験の有無」を確認し、成株相を引き継げる株かどうかを見極めることが大切です。
2025年3月30日(過去の栽培記録はこちら)に剪定・株分けしたモンステラシエラナのミドルカット苗から、突然ミント斑のハーフムーンっぽい葉が開いてきました。詳細は以下の栽培記録にまとめています。
モンステラシエラナの栽培記録
Plant Cultivation Record
時系列で栽培記録が確認しやすいように本ページでご紹介しているモンステラデリシオーサシエラナの栽培記録のみを一覧で以下にまとめています。
モンステラシエラナの栽培記録については、以下のページで全てまとめています。
モンステラシエラナ
Monstera Deliciosa var Sierrana

Types of Monstera
モンステラの種類
私が現在栽培しているモンステラの種類は、一般的な人気の種類(モンステラデリシオーサ、モンステラボルシギアナ)と、その他の種類(sp. ペルー、アカコヤグエンシス、アクミナータ、アダンソニー(マドカズラ)、エスケレート、オブリクア、サブピンナータ、シルテペカナ、スタンデリアナ、スプルセアナ、ドゥビア、ピナッティパルティタ、レクレリアナ)です。それぞれの詳細については、以下のページでまとめています。


