2025年3月30日(過去の栽培記録はこちら)に剪定・株分けしたモンステラ・シエラナのミドルカットした挿し苗から、突然ミント斑のハーフムーンっぽい葉が開いてきました。一緒にビジネスをしている中国人のモンステラ愛好家に実物を見せたところ、「めちゃくちゃ興味深い現象。結論から言うと、この葉の模様は『斑(はん)』の一種だね。ただし、“安定した遺伝的(または細胞系統的)な斑”であるか、あるいは“一過性の栄養・環境要因によるクロロフィル変動”かは、現時点では判断保留。」との回答をもらいました。ミント斑を持った斑入りのモンステラ・シエラナが誕生したら驚きですよね。本株についてモンステラ愛好家の中国人と一緒にディスカッションした内容を栽培記録にまとめておきます。

形状と境界の特徴(株観察)

以下は実際にミント斑のハーフムーンの様な葉が開いたモンステラシエラナです。

斑入りのモンステラシエラナ
斑入りのモンステラシエラナ

上記モンステラ・シエラナの状態を観察した結果は、以下の通りです。

  • 明るいミント色と濃緑の境界は滑らかではなく、やや湾曲して入り組んでいるのが確認できる。
  • 境界線の走り方は葉脈と平行ではなく、組織単位(細胞層単位)で区分されているように見える。
  • 光の反射ではなく、実際に葉緑素量の異なる部分として観察される。
  • 葉全体の健康状態は良好で、病斑やウイルス性の斑紋は確認されない。

これらの特徴は「病変」や「日焼け」などによる表層的な変色ではなく、葉の形成過程において色素形成が部分的に抑制された結果生じた“斑入り現象”と一致すると考えられます。

環境的なクロロフィル変動か、細胞変異(チメラ)か?

ここが判断の分かれ目となります。モンステラ属の場合、以下の2つの経路で“突然の斑”が出ることがあります。

(A)一過的・環境要因によるクロロフィル減少

新芽の展開時に光量や養分(特にマグネシウムや窒素)の欠乏や過多が起こると、一時的にクロロフィルが少ない領域が生じ、薄いミント色になることがあります。しかし、その後の葉では斑が消え、再び全緑に戻る傾向があります。このような一時的な色抜けは「偽斑(pseudo-variegation)」と呼ばれ、次の葉には引き継がれません。

(B)細胞変異(チメラ)による安定的斑入りの発現

成長点(メリステム)のL1層またはL2層で生じた葉緑体形成の異常や遺伝的変異によって、斑が固定されることがあります。一葉限りではなく、後続の葉や節にも同様のパターンが現れる場合、チメラ(斑入り変異)である可能性が高いです。これは、いわゆる「モンステラ・ミント」や「ハーフムーン」などに見られる、安定した細胞キメラ(chimeral variegation)による斑入りの発現メカニズムと同じです。

L1、L2とは何?

L1、L2とは、植物の成長点(メリステム)を構成する細胞層の名称であり、斑入りがどの層に由来するかを説明する際に非常に重要な概念です。モンステラやアンスリウムなどの観葉植物においても、斑入りの安定性を理解する上で欠かせない基礎知識です。植物の茎頂(成長点)は、主に3層の細胞層で構成されています。

層名位置主に形成する部分斑入りとの関係
L1層一番外側(表皮)葉や茎の表皮(外側)ここに変異があると、葉の表面のみ色が変わる(薄斑や縁取り)
L2層その下の層葉の内部組織(葉肉)や花粉、種子などここに変異があると、葉全体の一部(セクター型・ハーフムーン型)の斑になる
L3層一番内側(中軸部)茎や維管束、根の組織通常は葉の模様にあまり影響しないが、枝変わりの安定性に関与することがある

L1層だけが変異した場合、葉の表面や縁に白い筋やラインが入ることが多く見られます。L2層が変異した場合は、葉肉の一部が白・黄・ミント色になる「ハーフムーン」や「セクター型斑」などのパターンを示します。モンステラで最も一般的に観察されるのはこのタイプです。

今回のシエラナに見られる片側ミント斑も、典型的にL2層変異に由来するパターンと考えられます。なお、L1+L2の両層に変異がある場合は、斑が葉全体に広がりやすく、比較的安定します。代表例として、組織変異が固定された「モンステラ・タイコンステレーション」などが挙げられます。

植物は成長する際、これらの層がそれぞれ独立して細胞分裂を続けます。ただし、層構造が乱れると(例:剪定後に発生する不定芽など)、斑が消えたり増えたりする「層交代」が起こることがあります。つまり以下のようになります。

  • L1層が変異しても、L2層が正常であれば、子株や挿し木では斑が消えることがある。
  • L2層が変異していれば、葉の模様として安定して現れやすい。
  • ただし、層構造が乱れると(例:剪定後の再生時など)、斑が消えたり増えたりする「層交代」が起きる。

簡単にまとめると以下の通りです。

  • L1層=葉の外側(表皮)
  • L2層=葉の内部(葉肉・維管束に近い)
    → 斑の安定性や模様タイプは、どの層に変異が起きたかによって決まります。

現段階での診断の目安

現時点での診断をまとめると以下の通りです。

観察項目現状の推定コメント
境界の明瞭さ明瞭チメラ型の可能性あり
色の傾向ミント〜ライム色安定的葉緑素欠損に似る
葉の健康状態良好(病変なし)病理性の可能性低い
斑の位置片側寄り(ハーフムーン様)層変異・セクター型斑に一致
過去葉の履歴全緑(初発)突然変異発生か一過性の可能性あり

したがって、現在の現状は「発生初期のセクター型斑の可能性が高い」と判断できます。ただし、次の新葉・次節に同様の模様が繰り返し現れるかどうかが決定的な判断材料です。以下は参考情報です。

斑のタイプ見た目の特徴原因の違い
マーブル型(marble)緑と白が細かく混じるL1とL2の両層が不均一に変異
セクター型(sectoral)扇状・片側が白またはミント主にL2層の一方向変異
スポット型(speckled)斑点状・まだら状の斑部分的な葉緑体変異や栄養不均衡
縁取り型(marginal)葉の縁に沿って明るいラインL1層(表皮)変異

まとめ

現時点での診断結果をまとめると以下の通りです。

  • このミント状の模様は斑入り現象に分類できる
  • チメラ型(細胞変異)である可能性が高いが、現時点では一過性の偽斑の可能性も高い。
  • 次葉・次節に同様の斑が現れるかで確定判断。

次の新しい葉がどの様な状態になるかとても楽しみです。引き続きモンステラシエラナに変化がありましたら栽培記録を更新していきます。

モンステラシエラナの栽培記録

Plant Cultivation Record

時系列で栽培記録が確認しやすいように本ページでご紹介しているモンステラデリシオーサシエラナの栽培記録のみを一覧で以下にまとめています。

2025年11月3日

斑入りのモンステラシエラナ?緑株から突然現れたミント斑New!!

2025年11月2日

モンステラ・シエラナで検証:葉に穴が開かない原因と“成株相”を引き継ぐカット苗の栽培記録New!!

2025年7月5日

茎伏せ2枚目の葉から既に繊細になり始めたモンステラシエラナ

2025年6月23日

モンステラの葉に切れ込みが入らない理由は親株(未成熟)が原因

2025年6月18日

ボトムカットのモンステラシエラナ、3つの成長点から切れ込みが入った新葉が3葉同時に開く

2025年6月16日

茎伏せ直後のモンステラシエラナ、14株中、13株に切れ込みが入った葉が開く

2025年6月4日

モンステラの茎伏せ一枚目の葉からガッツリと切れ込みを入れる方法

2025年4月28日

複数の節(成長点)があるモンステラの茎を挿し木した場合どのような現象が起こるのか?を実際に確認

2025年4月28日

増やしたモンステラシエラナ14株を園芸ラベルにて管理開始

2025年4月17日

ミドルカットしたモンステラシエラナ14株を水耕栽培(水挿し)から鉢植えへ移行

2025年3月30日

栽培1年4ヶ月で2メートル以上に成長したモンステラシエラナを初めてカット(剪定)

2025年3月30日

モンステラシエラナにデリシオーサらしい繊細な葉が開く

2025年3月2日

2メートル以上に成長したモンステラシエラナ、剪定前の記録

2025年2月16日

支柱を捻じ曲げるモンステラの強力なパワー

2025年2月14日

成熟するとずんぐりむっくりの葉からシャープに変化するモンステラシエラナ

2025年1月17日

成熟したモンステラシエラナの葉はスケルトンに似るのか?マクロコズムに似るのか?

2025年1月10日

シャープな葉に変化してきたモンステラシエラナの巨大株

2024年11月27日

モンステラシエラナは栽培一年でどこまで成長するのか?

2024年11月7日

支柱を捻じ曲げながら2メートル近くまで大きく成長したモンステラシエラナ

2024年10月6日

葉にあく穴の数5つに増えたモンステラシエラナ

2024年8月30日

ついにモンステラシエラナの葉に穴があいた

2024年7月15日

葉の切れ込みが深くなってきたモンステラシエラナ

2024年1月22日

モンステラシエラナの1枚目の新しい葉を確認

2023年11月15日

本物のモンステラシエラナの栽培を開始

モンステラシエラナの栽培記録については、以下のページで全てまとめています。

モンステラシエラナとは?

モンステラデリシオーサシエラナは、メキシコのオアハカの一部のエリアに自生しているモンステラの個体群です。耳がフラットなモンステラがシエラナとして販売されている事がありますが、オアハカの一部エリアに自生する個体群でなければそのモンステラはシエラナでは無いそうです。詳細については、以下のページでまとめています。

Types of Monstera

モンステラの種類